農業における国際的投資:その否定的インパクトは便益に勝るか?

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Pablo Pacheco 国際林業研究センター(CIFOR) 「森林とガバナンス」プログラム・上級研究員

農業のために途上国の土地に殺到する国際的投資家たちの近年の傾向は、学者、政策決定者、メディア、そして市民団体の関心を集めてきた。こうした事態がも たらし得る影響をどうみるかは、その論拠もさることながら、論者のイデオロギーによっても、さまざまである。国際投資の近年の傾向の擁護者たちは、海外か らの投資が、(途上国の)技術的制約を克服し、農業の近代化を促進し、さらに、地域経済をグローバルな市場に結びつけるのに貢献することを強調する。一 方、批判者たちは、食料への公平なアクセス、地域の土地保有権の保護、そして土地開発から得られる便益の共有化についての懸念を強調している。環境主義者 は、しばしば、複雑な感情を抱いている。彼らは、投資家達を、森林破壊を引き起こす主要なプレイヤーとみなす一方、保全において重要な役割を果たす存在と みなしてもいる。

大規模な土地専有を促す途上国の農業分野における国際的投資は目新しい動向ではないが、新たな含意を持っている。したがって、そのインパクトに首尾よく対 処する効果的な政策を考案するべく国際投資の動態を理解することは、困難ではあるが喫緊の仕事である。多様な要因が土地投資や農業への投資を形作ってい る。これらの投資は、しばしば異なる動機づけ(生産や投機において)をもった多様なアクター(国際的なアクターからローカルなアクターまで)を含んでい る。また、投資が行われる地域特異的な状況に応じて、それらのインパクトも多様である。効果的な政策対応が図られるべきであるとするなら、そうした投資の 規模や、社会的・経済的・環境的影響に光を当てることが、それらの投資がもたらす負のインパクトを減らすだけでなく、正の貢献を促すために必要である。

以上のような目的のもと、国連世界食糧安宣保障委員会「食糧安全保障と栄養」に関するハイレベル専門家パネルは、この問題に関する報告書を出している。そ の著者、Toulminらは、利用可能な評価結果を分析し、国際的投資家たちが、購入や借地契約を通じて、中・低所得国における土地、5000 万~8000万ヘクタールを獲得していることを明らかにした。これらの地域の3分の2は、アフリカのサブサハラ地域に存在している。著者達は、こうした動 向を形作る要因について、すでに広く知られていることを繰り返し述べている。すなわち、投資の増加は、多くの場合、高まる食料・飼料・繊維・バイオ燃料需 要と金融投機に関係している。これらの取引を可能にするプロセスには、国際的な法人企業から、地方行政機関、ローカルな企業、政府役人などの多様な利害が 関わっている。その報告は、国内の投資家が農業部門で重要な役割を果たしていることを認めつつも、大規模な国際投資に焦点を当てている。

Toulminらは、農業における大規模投資は、必ずしも、食料供給を増加させたり、収穫ギャップ(訳注:潜在的に可能な収穫量と実際の収穫量の差)を縮 めたり、生産を拡大させたりするとは限らない、と述べる。むしろそうした投資は、財産の没収やディスプレイスメント(訳注:ある場所から立ち退かされた り、立ち退きを伴わなくても、土地や資源へのアクセスが、何らかの形で制限されたりすること)を導き、地域住民にネガティブな影響を与えている。著者ら は、企業による土地の専有が、リースを通じて(多くの場合、当該国政府が外国人による土地所有を認めていないため)、あるいは、「土地収用権」の考え方を 基礎に、政府が地域住民の土地を営利的な大規模投資家に手渡すことを通じて行われることが多いと指摘する。契約条件や地域住民への保障は、かなり問題含み である。

それらの投資は様々な形態をとるが、最も一般的なのは大規模プランテーションである。Toulminらは、大規模プランテーションへの投資が優占している のは、政府が、契約農業のようにより包括的なビジネスモデルを振興することよりも、大面積の土地を対象とする投資を呼びかけているためだと論じている。そ して、プランテーションにおける大規模投資は、しばしば地域の暮らしを破壊し、食料の安全保障を衰退させ、重要な資源へのアクセスを減らしてしまうと結論 づけている。雇用の約束はしばしば実現されることがなく、当該地域の外部からやってきた人びとが、わずかに生みだされた仕事に就くことが多い。さらに、農 地の取得は、ジェンダーに関わる重大な意味を持つ。なぜなら、女性は、土地へのアクセス、意思決定、土地の所有とコントロールに関して、システマティック な差別に直面するからである。最後に、著者たちは(大規模プランテーションへの投資の)直接的・間接的な負のインパクトが、森林転換の圧力、土壌浸食、そ して水汚染によって、より過酷なものになっていると指摘する。しかし、土地の安全保障、規制、市場の状況の異なった組み合わせによって、それがもたらす帰 結には、さまざまなものがあり得る。

本報告は、大規模投資がもたらす社会・経済・環境的インパクトに対処するために、異なるレベルで、また、さまざまな目的と規模で生起している数多くのガバ ナンスのイニシアティブについて述べている。これらのイニシアティブには、ボランタリーなガイドライン、業種別のラウンドテーブル(会合)、そして、土地 保有と環境と税制度といった問題に関わる国家政策の変化が含まれている。そして、本報告はそれぞれのアクター別の推奨策を列挙して終わっている。

さまざまなレベルにおけるより強いアクション、ガバナンスの改善のために多様な利害関係者の参画、そして、観察される負のインパクトを改善することを主と した国際的投資の監視—本報告は全般的にこれらを支持する内容になっている。大規模土地取得が起きているさまざまな環境のなかで、提案された政策対応 (そして、それが生みだすインセンティブ)が現実にどのように作用するのかをよりよく理解するためのさらなる機会がある。本報告書の著者たちは、小規模土 地保有者の能力向上の方法を提案しているが、現存する潜在的可能性を活用することによっても多くのことができる。数多くの小規模資源管理システムは、社会 的、経済的、環境的な目標を調和させることが可能である。したがって、大規模投資のガバナンスの強化と小規模土地保有者の潜在力を支持することは、同時に 追求されるべきグローバルな優先課題となっている。

[ 日本語訳 : 笹岡正俊(CIFOR) m.sasaoka@cgiar.org ]

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Further reading

Toulminらの報告書、" Land tenure and international investments in

agriculture: a report by The High Level Panel of Experts on Food Security and Nutrition on World Food Security"が欲しい方は、こちらをご覧

ください://www.cifor.org/nc/online-library/browse/view-publication/publication/3522.html.