REDD+ の実際のコストはいく らか?

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By Arild Angelsen
国際林業研究セン ター・シニアアソシエート/ノルウェー生命科学大 学教授

REDDにはどのくらいのコス トがかかるか?少なくとも、あの影響力のある「スターン報告」が2006年に発表されて以来、REDD(森林減少と森林劣化 による排出の削減)は 気候変動緩和のための最も安価な選択であると、多くの人が主張するようになった。その他の 人たちは、REDDのメカニズムは、世界 森林居住者と気候に対 して予期せぬ結果を招く、コストのかかる努力であるとみている。どちらが正しい のであろうか?

REDDのコストはいくら か?」という問いは、「車のコストはいくらか?」という問いと同じぐらいの厳密さしかな い。それは、車種、車の台数、言及して いるコストが、生産費 なのか、購入費なのか、あるいは、運転費なのか、などにより全く異なってくる。「スターン 報告」を含む大抵のREDDコスト評価は機 会費用に焦点を当てて いる。それはつまり、別の最良の土地利用なら得られていた利益、すなわち森林を保全しなけ れば得られていた遺失利益である。これに は、農業収益だけでは なく木材、炭、そして森林を劣化させる方法で収穫される他の産物から得られる収益を含む。 また、REDDを実施する国は、REDD ステムを立ち上げるた めのコストや、REDDの達成に必要な政策の 実施にかかる費用など、取引費用や実施費用にも直面する。それゆえ、機会費用、実施費用 (機会費用を直接補償す るコストを除く)、取引費用(政府機関および森林利 用者に対する)の和が、森林減少と森 林劣化を回避する国が負う、正味のコストで ある。

しかし、REDDを行う国々の政府は、 この問題とは少し異なる次の問題にも同様に関心を抱いている。すなわち、REDDのプロジェクト実施コ ストがいくら か、という問題であ る。機会費用は、選択される政策とその政策の実効性に左右されるため、REDDのプロジェクト実施コ ストを示すのには、欠陥を持った指 標になり得る。ただひ とつの特別なケース、つまり、取引費用がゼロで、近々森林をチェーンソーで切り倒そうと考 えている森林利用者のみをターゲットとし、 利用者の機会費用に関 する完全な情報が得られるという、環境サービスの支払い(PES)の仮説上の"完全な"システムにおいての み、プロジェクト実施コス トは機会費用と全く同 じものになるだろう。もちろん、こうした想定は、きわめて非現実的であり、実際には、土地 保有や他の前提条件が完全にPESを認めた としても、PES制度のコストはそれよ りもっと高くなる。

他の多くのREDD政策が利用可能であ る。政府は、現在の、また、将来の森林利用者に対してなんらの補償を行うことなく、林地転 換のライセンス発行を止め ることができるし、森 林保護地域を設置することができるし、森林法規の執行を強化することもできる。その場合、 プロジェクト実施コストは、機会費用よりも 少なくなるであろう。

もうひとつの選択肢 は、現存する土地の耕作を、森林の不法開墾よりも魅力的なものにする農業政策である。こう した政策は、政府にとってどのくらい費用がか かるものなのだろう か。プリンストン大学のBrendan Fisherが率いる科学者チーム Nature Climate Change誌に発表した論文は、 タンザニアの事例をもとにこの問題に取り組んでいる。彼らは、まず、農業および木炭生産か ら得られる現行の利益から REDDの機会費用を計算し、 それが、二酸化炭素1トン当たり、3.20-5.50米ドルであることを明 らかにしている。これは、ヨーロッパの炭素市場に おける現在の炭素価格 よりかなり低い値である。

次に、この研究チーム は、農業の生産力と木炭の効率性を高めることで森林の開発圧を取り除く政策を実施するのに 政府やドナーが負う費用を考察している。彼 らは、その費用を二酸 化炭素1トン当たり4.60-9.40米ドルと見積もってい るが、これは、先述の機会費用よりもずいぶん高い値となっている。

農業生産力と木炭の効 率性を促進させることの主要な利点は、気候変動緩和と共に、食糧・エネルギー生産のための 多様な目的を追求できることだ。また、この 論文の著者たちは、農 業生産力を高めることは、農業のための森林開墾を単に制限する純粋な保全プロジェクトと比 較して、リーケージ(対象地域以外に森林破 壊の場が移ってしまう こと)のリスクを減らす、と いった議論を説得的に行っている。

森林減少を抑制するた めに農業生産力を刺激すること(Borlaug仮説)、あるいは、森林劣化 を減らすために燃料の効率性を高めることは、ますます関心 を集めているREDDの政策手段である。し かし、注意も必要である。CIFORによって行われた農業 技術と森林減少の関連性に関する研究がこれまで強調し てきたように、農業生 産力の増加の直接的なインパクトは、多くの場合、農業のための森林開墾をより儲かるものに し、森林減少を抑えるどころか拡大してしま う。農業生産力の増加 は、森林保全に対して積極的な帰結をもたらすために必要ではあるが、それだけでは十分では ない。 イギリスで150年前に観察されたよう に、石炭のより効率的な利用は石炭消費を減少させなかった(Jevonsのパラドックス)。この点は、Fisher たちが注意を寄せてい るように、家庭エネルギー技術の改良がもたらす反動効果に対する現代の関心と共通する問題 である。このことが示唆するのは、燃料の効 率性を高める政策は、 収穫のより良いコントロールと組み合わせて行われる必要がある、という点である。

さて、REDDにはどのくらいのコス トがかかるのか?「それは状況によりけり」・・・これは面白みのない答えだが、私たちは、Fisherたちの論文など から、REDDのコストがどのような 状況に左右されるかについてより優れた証拠を手にしつつある。第一に、それは、私たちが見 ているのが誰のコストなの か、すなわち、社会一 般なのか、政府なのか、地域の森林利用者なのか、あるいは、トレーダーなのかによる。第二 に、それは、REDDの実施のためにどのよ うな政策手段の組み合 わせが選択されるかに強く左右される。全般的に、REDDが気候変動緩和に大き く貢献し得るとはいえ、我々は、REDDが数年前に考 えられていたほど、低 コストではないだろう、とする著者たちの意見に同意する。

[日本語訳:笹岡 正俊(CIFOR) m.sasaoka@cgiar.org ]

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Further reading

Nature Climate Change誌に掲載されたFisher らの論文は こちら をご欄ください。また この論文に関するNature Newsの記事は こちら をご参照ください。

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